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このページは、行政書士法人スマートサイド(横内賢郎)が執筆した書籍「はじめての方の経営事項審査“入門書”」(Parade Books)の「第2章:内容編~仕組みや重要ポイントの解説~」を、WEB用にリライトしたものです。
みなさまに、自由にお読みいただくために公開しておりますが、書籍購入をご希望の方は、ぜひ、Amazonのページから、お買い求め下さい(こちらをクリックするとAmazonのページに移動します)。
また、「第1章:手続編」「第3章:事例編」にも興味をお持ちの方については、以下のリンクからお進みいただくことができます。
(以下、第1章からの続き)
この章では、第1章で説明した各手続きについて、内容の解説を行いたいと思います。この本は、あくまでも初心者の方を対象に記載した本ですので、わかりやすさを重視しています。そのため、これさえ読めば申請ができるといったものではありません。
しかし、各手続きの要点、重要箇所について、「どこを注意すればよいのか?」「どこを優先的に見ていけばよいのか?」といった点に配慮して構成し、初心者の方でもわかりやすいように執筆しました。ぜひ、細かいところはあまり気にせず、わからないところは読み飛ばすくらいの気楽な気持ちで読み進めていってください。
目次:内容編(仕組みや重要ポイントの解説) |
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【1】決算変更届 |
【1】決算変更届
「第1章 手続編」で決算変更届の提出は、建設業許可業者の義務であること、および、経審を受ける会社にとって重要な届出であることを説明しました。この章では、経審を受ける際の決算変更届の作成のルールについて、解説していきたいと思います。
1:作成する書類は「税抜き」で
決算変更届は、経審を受けるか否かに限らず、すべての建設業許可業者が許可行政庁に提出しなければならない届出です。この決算変更届の作成、記載の仕方には、経審を受ける場合の特殊なルール(経審用のルール)があります。
その1つ目が、決算変更届の書類(工事経歴書・直前3年の各事業年度における工事施工金額・財務諸表)については「税抜き」で記載するといったルールです。
(1)税務申告用と建設業法用
まず、前提として理解して頂きたいのが、決算変更届を提出する際には「税理士が作成した税務申告用の財務諸表」を「建設業法用の財務諸表」に書き換えて、許可行政庁に提出しなければならないということです。税理士が税務署に提出する財務諸表と、許可業者が許可行政庁に決算変更届として提出する財務諸表とは、別物です。税理士が作成した財務諸表を建設業法用に書き換えないで、そのまま、許可行政庁に提出しても受け付けてはくれません。
「税務申告用→建設業法用への書き換え」が必要であるという点については、経審を受けるか否かに関係なく、すべての建設会社に当てはまります。
これに加えて、経審を受ける会社の場合、決算変更届で提出する書類(建設業法用財務諸表を含む工事経歴書や直前3年の各事業年度における工事施工金額)は「税抜き」で作成しなければなりません。
経審を受けない会社の場合、財務諸表が税込みで作成されていても特に問題はありませんが、経審を受ける会社の場合、許可行政庁に提出する建設業法用の財務諸表は「税抜き」で作成されていなければなりません。もともと「税抜き」で作成された財務諸表を、税抜き表記のまま、建設業法用に書き換えるのは、それほど手間はかかりません。
しかし「税込み」で作成された財務諸表を「税抜き」の建設業法用財務諸表に書き換える作業は、税務申告用を建設業法用に書き換えるだけでなく、税込み表記を税抜き表記に変換しなければならないため、少し、手間がかかります。
(2)決算変更届を「消費税抜き」で作成しなければならない理由
それではなぜ、経審を受ける会社は、決算変更届を「税抜き」金額で作成する必要があるのでしょうか?
経審には、決算変更届や経審の申請書類に記載した「売上高」が評価の基準となる項目があります。経審の結果であるP点を算出する際に「売上高」が重要な基準となってくるわけです。
もし仮に、A社は売上高を「税込み」で記載し、B社は売上高を「税抜き」で記載していたらどうでしょう。消費税を単純に売上高の10%と換算すると、実際には、同じ「1億円(消費税抜き)」であるにも関わらず、A社の売上高は1億1000万円、B社の売上高は1億円というように、額面上、差がついてします。
これだと、経審的には、売上高の大きい会社の方が有利ですから「税込みで作成したほうが点数が高くなる」という不公平が起きてしまいます。
しかし、このような不公平が起きてしまっては、会社の実態に即した厳格で公正な審査を行うことはできません。もうお分かりですね。『「税込み」のほうが有利で「税抜き」のほうが不利』といった事態を避けるために、経審を受ける会社は、すべて「税抜き」で決算書類を作成するようにルールが統一されているわけです。
(3)ポイントは、消費税確定申告書の課税標準額
決算変更届で作成した書類(工事経歴書・直前3年の各事業年度における工事施工金額・財務諸表)が、消費税抜きで作成されているかどうか?の確認のために用いられるのが消費税確定申告書です。
ポイントは、消費税確定申告書の課税標準額です。損益計算書に記載されている「売上高」と消費税確定申告書の「課税標準額」を比較し、売上高が、消費税確定申告書の課税標準額と同じか、下回っていなければなりません。
経審の際には、売上高が消費税確定申告書の課税標準額を上回っていると「なぜ、消費税抜きで作成した損益計算書の売上高が、消費税の課税標準金額を上回っているか?」の説明を求められます。
「売上高の中に非課税収入がある」などの特殊な事情がない限り、「決算変更届を税込み表記で作成しているのではないか?」「経審の点数を上げるために売上高を水増ししているのではないか?」という疑義が生じます。このような場合には、決算変更届を税抜き表記に作成しなおすなど、決算変更届の提出・経営状況分析の申請からやり直しをせざるを得なくなります。
(4)税理士作成の財務諸表が「税込みか?」「税抜きか?」を見抜く方法
以上のように、経審を受ける建設会社の場合、税理士作成の財務諸表を建設業法用に書き換えるのみならず、必ず、決算変更届を「税抜き」表記で作成しなければなりません。税理士が、決算書を「税込み」で作成しているか「税抜き」で作成しているかが、経審を受ける際の作業量に大きな影響を与えてくるわけです。
では、税金の専門家ではない私たちが、決算書類が「税抜き」で作成されているか?「税込み」で作成されているか?を見分けるにはどうすればよいのでしょうか?
この点については、税理士作成の決算書類の中にある「個別注記表」または「法人事業概況説明書」で判断することができます。個別注記表には、重要な会計方針として、消費税に関する会計の処理方法について記載する箇所があり「税抜き方式によっている」とか「税込み方式によっている」といった記載があります。また、法人事業概況説明書には、「経理の状況」として「税抜経理方式」か「税込経理方式」かにチェックを入れる箇所があるので、そちらで、判断することもできます。
1番早くて確実なのは財務諸表を作成している税理士に聞くことです。税理士に聞けば、会社の財務諸表を「税込みで作成しているのか?」それとも「税抜きで作成しているのか?」を回答してくれます。
(5)税理士さんへのお願い
経審を受ける会社は、決算変更届を消費税抜きで作成することが求められています。税理士が税込みで決算書類を作成している場合、建設業法用の財務諸表を作成するにあたって「税込み」を「税抜き」に書き換えなければいけません。
税込み表記で作成された財務諸表を、会社の担当者や行政書士が正確に税抜き表記に再現することは、不可能ではないにしても、かなり難しいと言わざるを得ません。すべての課目について、課税・非課税を正確に仕分けできれば良いのですが、課税・非課税が混在しているケースもあり、実態に合った正確な金額での消費税抜き財務諸表を作成するには限界があります。
そのため、経審を受ける会社は、ぜひとも、財務諸表を税抜きで作成するように税理士にお願いをしてみてください。
2:工事経歴書の書き方にも注意を
工事経歴書は、当該事業年度の許可業種ごとの工事実績を記載する書類です。経審を受けない会社の場合、許可業種ごとに請負金額の大きいほうから上位10件程度、記載すればOKです。しかし、経審を受ける会社の場合、特殊なルールに基づいて工事経歴書を作成する必要があります。
以下では、わかりやすいように原則パターンと例外パターン(強制打ち切りルール)として、説明します。
(1)原則パターンを理解しよう
まずは、原則パターンです。経審を受けない会社の場合、工事経歴書は、請負金額の大きい順に記載すればOKですが、経審を受ける会社の場合、金額の大きい順に記載すればOKというような単純なものではありません。
経審を受ける会社の場合、(ア)まずは、元請工事から請負金額の大きい順に、元請工事全体の7割に達するまで、記載する必要があります。(ア)の合計金額が、元請工事全体の7割に達したら、(イ)元請、下請に関係なく、請負金額の大きい順に、完成工事高の7割に達するまで記載します。
「内装工事:元請3000万円、下請7000万円、合計1億円の会社」を例にとってみていきましょう。
元請3000万円の7割は、2100万円ですので、元請工事の請負金額の大きいほうから順に2100万円に達するまで記載します。
①元請 1000万円
②元請 500万円
③元請 400万円
④元請 300万円
①~④を記載したところで、記載した元請工事の合計が2200万円となり、元請工事全体の7割(2100万円)を超えました。これで(ア)の条件を満たしたことになります。(ア)の条件を満たしたので、(イ)に移行します。⑤以降は、元請、下請関係なく、請負金額の大きい順に、全完成工事高の7割(7000万円)を超えるまで記載します。
⑤下請 3300万円
⑥下請 1000万円
⑦元請 280万円
⑧下請 210万円
⑨元請 200万円
⑨まで記載したところで、①~⑨の合計が7190万円となり、内装工事全体の7割(7000万円)を超えた((イ)の条件を満たした)ので、ここで工事経歴書の記載は終わりになります。
ここまでが原則パターンです。初めて経審を受ける方は、この原則パターンを理解するように心がけてください。
(2)例外パターン(強制打ち切りルール)を理解しよう
原則パターンに続いて、例外パターンも説明します。ここでは、工事1件当たりの金額が、小さかった場合を想定してみてください。
1件当たりの請負金額が小さい場合、(ア)(イ)の条件を形式的にあてはめると、7割に達するまでに、膨大な量の工事実績を記載しなければならなくなります。場合によっては、工事実績の記載件数が100件を超えてしまうといったケースも出てくるわけです。どんなにたくさんの工事実績を記載しても7割に達することができないのに、7割に到達するまで工事経歴書の作成を終わらせることができないというのは現実的ではありません。
そこで例外パターンでは、500万円未満の工事の実績が10件に達した場合には、工事経歴書の記載を終了してよいという、強制打ち切りルールが発動されます。
まず(ア)の段階で、元請工事全体の7割に達する前に500万円未満の元請工事を10件記載した場合には、元請工事全体の7割に達していなくても(イ)の条件に移行する前に工事経歴書の作成を終了することができます。(仮に(ア)の段階で、500万円未満の元請工事が10件に達することなく、元請全体の7割を超えた場合には、(イ)の条件に移行します)。
続いて(イ)の条件に移行してからも、(ア)の条件で記載した件数と合わせて500万円未満の工事が10件に達した場合には、工事経歴書の作成を終了することができます。
原則パターンと同様に「内装工事:元請3000万円、下請7000万円、合計1億円の会社」を例に、具体的に見ていきましょう。
①元請 1500万円
②元請 300万円 ←500万円未満1件目
③元請 220万円 ←500万円未満2件目
④元請 200万円 ←500万円未満3件目
(①~④の合計=2220万円)
⑤下請 250万円 ←500万円未満4件目
⑥下請 230万円 ←500万円未満5件目
⑦元請 190万円 ←500万円未満6件目
⑧元請 180万円 ←500万円未満7件目
⑨下請 177万円 ←500万円未満8件目
⑩下請 173万円 ←500万円未満9件目
⑪元請 160万円 ←500万円未満10件目
この場合、①~④を記載したところで、記載した元請工事の合計が2220万円となり、元請工事全体の7割(2100万円)を超えました。これで(ア)の条件を満たしたことになります。(ア)の条件を満たしたので、(イ)に移行します。
が、しかし、⑤以降は、大きい金額でも250万円や230万円です。この場合に、(イ)の条件を形式的に適用し全完成工事高の7割(7000万円)を超えるまで工事実績を記入しなければならないとすると、工事経歴書が何枚あっても足りません。
そこで、この場合には、強制打ち切りルールを発動し、(ア)で記載した500万円未満の工事の件数(②~④の3件)と、(イ)で記載した500万円未満の工事の件数の合計が、10件に達した⑪の時点で、工事経歴書の作成を終了することになります。工事経歴書に記載した内装工事の請負金額の合計は、3580万円で、全体の7割である7000万円には、遠く及びませんが、例外パターンの場合、この時点で工事実績の記載は終了ということになります。
初心者の皆さんは、まずは、原則パターンを理解したうえで「工事実績をたくさん書かなければならず大変だな」と感じた時には、例外パターン(強制打ち切りルール)を思い出し、500万円未満の工事が10件に達するか否かを確認してみてください。
(3)経審の際には
経審の際には、工事経歴書が「上記のルールに従って作成されているか否か?」の確認作業が行われます。また、工事経歴書に記載されている上位3件の工事実績については「工事契約書」もしくは「注文書・請書」もしくは「請求書・入金通帳」の提示を求められ「本当に工事の実績があるのか?」の確認作業も行われます。
上記の工事経歴書の例でいうと、工事実績が赤くなっている上位3件について、契約書などの資料の提示が必要になります。工事経歴書の記載に誤りがあると、訂正や資料の再提示を求められ、作業負担が増えることになりますので、工事経歴書の作成の仕方を間違えないように十分に注意してください。
【2】経営状況分析(Y点)
第1章で、経審を受ける前には、必ず経営状況分析を行い、Y点を取得しておかなければならいないといった手順について説明しました。この章では、Y点を算出するための計算式、Y点アップの方法など、経営状況分析の中身について、具体的に解説していきたいと思います。
1:Y点の意味って?
経審を受ける前には必ず経営状況分析を申請して、経営状況分析の結果通知書(Y点)を取得しておかなければなりません。経審を受ける際には、経営状況分析の結果通知書(Y点)が必要になるからです。
経審は、「0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)」(小数点以下四捨五入)という計算式を用いて、総合評定値P点を算出するための手続きです。上記の計算式のYに該当する部分が、経営状況分析を行うことによって得られる経営状況分析結果通知書に記載されているY点です。このY点は、会社の経営状況を評価するための点数になります。
それでは、具体的にY点(会社の経営状況に関する点数)は、どういった指標を用いて算出されるのか見ていくことにしましょう。
2:Y点を算出するための8つの指標
当然のことながら、Y点は、何となく「この会社は景気がいい」とか「この会社は赤字続きで財務状況が良くない」といった感覚で判断されているわけではありません。Y点を算出するための経営状況分析は、以下の8つの指標を用いて行われます。
属性 | 指標 | |
---|---|---|
負債抵抗力 | ① | 純支払利息比率 |
② | 負債回転期間 | |
収益性・効率性 | ③ | 総資本売上総利益率 |
④ | 売上高経常利益率 | |
財務健全性 | ⑤ | 自己資本対固定資産比率 |
⑥ | 自己資本比率 | |
絶対的力量 | ⑦ | 営業キャッシュフロー |
⑧ | 利益剰余金 |
本書は、経審をはじめて受ける方のために書いた入門書ですので、この8つの指標や計算式については、詳細に解説することは避けますが、Y点を算出するための経営状況分析は、上記のような8つの指標を使って、行われるということを理解しておいてください。
経審の結果であるP点を算出するための計算式「0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)」を見ていただければわかる通り、P点に対するY点の占める割合は20%ですので、会社の財務状況が良ければ、それだけY点があがり、Y点が高ければ高いほど、P点の点数も高くなるといった関係性にあります。
3:Y点アップの対策とは?
それでは、はじめて経審を受ける初心者の方がY点をアップさせるには、どのあたりに気を付ければよいのでしょうか?
(1)絶対評価の対策は、あと回し
まずは、あと回ししても構わないもの、つまり、優先順位の低いものとして⑦営業キャッシュフローと⑧利益剰余金があげられます。8つの指標のうち、⑦営業キャッシュフローと⑧利益剰余金は、絶対評価です。「絶対評価」とは、割合や比率を用いて相対的に評価するのではなく、金額そのものが評価の対象になります。
金額そのものが評価の対象になるため、営業キャッシュフローや利益剰余金の額が大きければ大きいだけ有利になります。つまり⑦⑧は、企業規模がそのまま反映されるため、規模の大きい会社に有利に働きます。このように、中小企業が力を入れようと思っても、大企業にはかなわないため、ここでの対策は優先順位が低いということができます。
(2)寄与度が小さいものは、あと回し
また、上記の8つの指標は、すべてが均等に評価の対象になるわけではありません。Y点への寄与度(8つの指標がどれくらいY点算出に影響を与えるのか?)を下記の表から見ていくと、寄与度(影響度)が異なるのが分かると思います。
指標 | 寄与度 |
---|---|
①純支払利息比率 | 29.9% |
②負債回転期間 | 11.4% |
③総資本売上総利益率 | 21,4% |
④売上高経常利益率 | 5.7% |
⑤自己資本対固定資産比率 | 6.8% |
⑥自己資本比率 | 14.6% |
⑦営業キャッシュフロー | 5.7% |
⑧利益剰余金 | 4.4% |
(1)で指摘した⑦営業キャッシュフローおよび⑧利益剰余金は、絶対評価のため、対策は後回しでよいと説明しましたが、絶対評価という点のみならず、Y点への寄与度も低いため、さらに対策は後回しでよいということになります。また、④売上高経常利益率、⑤自己資本対固定資産比率も、寄与度が1桁台と、Y点に与える影響は小さいため、力を入れて対策するのはあと回しで構いません。
このような視点で見ていくと、優先的に対策を行ったほうが良いのは、寄与度が最も高い①純支払利息比率と、2番目に高い③総資本売上総利益率ということになりそうです。①と③の合計で、8つの指標の寄与度の50%を超えるわけですから、この2つをY点アップの対策から外すわけにはいきません。
(3)純支払利息比率、総資本売上総利益率の対策
それでは、①純支払利息比率、③総資本売上総利益率の対策は、どのように行っていけばよいでしょうか?
まず、①純支払利息比率ですが、純支払利息比率は、支払利息と受取利息配当金の割合によって算出されます。支払利息は、銀行からの借り入れなどによって生じる利息ですから、支払利息は少ないほうがよく、預貯金の利子や有価証券の配当金をあらわす受取利息配当金は大きいほうがよいことになります。そのため、銀行からの借入金を返済し、すこしでも支払利息を減らすことが①純支払利息比率の対策になると言えそうです。
続いて、③総資本総売上利益率ですが、これは、総資本(総資産)と売上総利益の比率によって、算出されます。少ない資本で、大きな利益を上げられる方が、費用対効果の高い会社として評価されます。そのため、総資本を減少させ、利益を上げることが対策になるといえるでしょう。具体的には、有価証券や土地などの遊休資産があれば処分する(総資本の減少)、完成工事高を増やすとともに工事原価を抑えることによって利益を増加させる(利益を上げる)ことが対策になります。
Y点のアップについては、このほかにもさまざまな対策を講じることができると思いますが、初めて経審を受ける方は、上記の2点について、理解しておくとよいかと思います。
【3】経営事項審査(P点)
経営状況分析を終えて経営状況分析結果通知書(Y点)を取得したら、次はいよいよ経審です。経審には、いままで説明してきたY点・P点のほか、X1・X2・Z・Wといったさまざまな記号が出てきます。初心者の方が、経審を難しく思う理由がこのあたりにあります。以下では、各項目について、わかりやすく解説していきたいと思います。
1:経営事項審査の基礎
まず、経審は、建設業許可を取得している業種(許可業種)のみで受けることができます。例えば、内装工事の建設業許可を持っている会社であれば、内装工事の経審を受けることができますが、建築一式工事の許可を持っていないのであれば、建築一式工事で経審を受けることはできません。あくまでも建設業許可を持っている業種でのみで、経審を受けることができます。
また、経審の結果である総合評定値P点は、経審を受けた業種ごとに与えられます。例えば、とび工事と舗装工事の2業種で経審を受けた場合、P点は、とび工事と舗装工事ごとに与えられます。仮に、土木一式工事、とび工事、舗装工事の3業種で建設業許可を持っていたとしても、経審を受けた業種がとび工事と舗装工事の2業種のみであれば、P点を取得できるのも、とび工事と舗装工事の2業種のみとなります。
以前、都庁で実際に経審を受けていた際に、16の許可業種のすべてで経審を受けている会社をお見掛けしました。16業種の建設業許可を持っているのであれば、そのすべてで経審を受けることもできます。しかし、たくさんの業種で広く浅く経審を受けたからと言って、それだけ、入札の機会に恵まれるかというと、そうでもありません。
後述する「完工高の振替(詳細はX1参照)」などの制度を利用して、いくつかの得意分野に絞って、経審を受けた方が効率的ではないかと思った次第です。費用面からしても、16の業種で経審を受けるということは手数料が48,500円もかかります。あくまでも私見ですが、経審を受ける業種はおおよそ、2~3業種程度であるというのが一般的なように思います。
2:P点を算出するための5つの項目
それでは、P点を算出するための5つの項目を見ていきましょう。このあたりから少しずつややこしくなってきますので、心して先に進んでください。
経審の結果であるP点は、下記の5つの審査項目によって算出されます。
区分 | 記号 | 審査項目 | ウェイト |
---|---|---|---|
経営規模 | X1 | 完成工事高(業種別) | 0.25 |
X2 | 自己資本額
利払前税引前償却前利益の額 |
0.15 | |
技術力 | Z | 技術職員数(業種別)
元請完成工事高(業種別) |
0.25 |
社会性 | W | 建退協への加入
法定外労災への加入 退職金制度の導入 建設業の営業継続状況 その他 |
0.15 |
経営状況 | Y | 経営状況分析の結果 | 0.20 |
これらは、いずれも経審の申請書類である「経営規模等評価申請書・総合評定値請求書」に数字を記載したり、項目にチェックを入れたりすることによって審査されます。具体的な項目ごとの解説は次ページ以降に譲るとして、完成工事高や自己資本額や技術職員の人数がP点算出のための審査項目であることを理解してください。
3:P点の算出方法/計算式
(1)算出方法/計算式
総合評定値P点の算出方法は、以下の通りです。
総合評定値(P点)=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
※小数点以下、四捨五入 |
- X1=工事種類別年間平均完成工事高
- X2=自己資本額及び利益額
- Y =経営状況分析
- Z =技術職員数及び工事種類別年間平均元請完成工事高
- W =その他の審査項目(社会性等)
(2)どうしてここまで複雑なのか?
総合評定値(P点)算出のための計算式を見て「なんのこっちゃ、さっぱりわからん」と思った人も多いと思います。総合評定値(P点)を算出する方法は、どうしてこんなにも複雑なのでしょうか?公共工事に入札する会社には、P点と、各自治体が点数を付けた主観点をもとに「等級」や「順位」が与えられます。入札を希望する会社に各自治体が「等級」「順位」を与える行為を「格付け」と言ったりします。
公共工事は、その「等級」や「順位」ごとに発注予定金額が定められていて、「〇億の工事はA等級に該当する会社」「〇千万円から〇千万円の工事はB等級に該当する会社」といったように、「等級」や「順位」ごとに受注できる公共工事の金額がある程度決まっています。
P点は、等級・順位の格付けの基準となる点数ですから(正確には、P点のみならず、各自治体が設けた独自の審査項目によって得られた主観点も等級・順位の格付けの際に考慮されます)、P点を算出する過程で、特定の会社に有利に働いたり、または、特定の会社に不利に働くようなことがあってはなりません。
P点を上げるための「特別な方法やテクニック」または「裏技や抜け道」をなくすため、P点を算出する計算式は、複雑なものとなり、同時に、経審を申請する際に必要となる各種資料や書類も多くなるわけです。
(3)P点は予測可能!経審ソフトでシミュレーションを!
このように複雑な計算式を用いて算出するP点ですが、経審ソフトを用いて、事前に点数を予測することができます。弊所では、ワイズ公共データシステム(株)の電子申請支援システムを使用していますが、ほかにも、登録経営状況分析機関が、さまざまなサービス(システム)を提供しています。
決算変更届・経営状況分析・経営事項審査の各書類は、ひな型を都庁や県庁のホームページからダウンロードして作成することもできますが、上記のような経審ソフトを使用して作成していくことも可能です。経審ソフトを使用して書類を作成していく中で、「売上高が○○円くらいだとP点が○○点」「技術職員が〇人だとP点が○○点」といったようなシミュレーションができるので、経審ソフトは、大変重宝しています。
【4】工事種類別年間平均完成工事高(X1)
1:X1の意味
経審を受けるにあたって、気になるのは「どれくらいの完成工事高があれば、どれくらいのP点になるのか?」といった完工高(売上高)とP点の関係ではないでしょうか?しかし、完工高はP点を算出するためのひとつの指標に過ぎません。完工高以外の指標も審査したうえで、P点を算出するのであり、必ずしも「完工高が上回っている会社の方が、P点が高い」というわけではありません。あくまでも完工高は指標のひとつです。完工高を上げることだけに注力していると経審の対策を見誤ることになるかもしれません。
そんな完成工事高を使った審査項目の1つがX1です。X1は、X2と並んで会社の経営規模を評価するための審査項目です。完成工事高が高ければ高いほど、経営規模の大きい会社として、P点が高くなります。P点全体に占めるX1の割合は25%です。
2:X1の点数の出し方
下記の表は、X1の点数を算出するための表です(10億円以上と8000万円未満は省略)。
建設工事の種類別年間平均完成工事高 | X1の点数 |
---|---|
(10億円以上は、省略) | ・・・・・ |
8億円以上10億円未満 | 38×(年間平均完成工事高)÷200000+816 |
6億円以上8億円未満 | 25×(年間平均完成工事高)÷200000+868 |
5億円以上6億円未満 | 25×(年間平均完成工事高)÷100000+793 |
4億円以上5億円未満 | 34×(年間平均完成工事高)÷100000+748 |
3億円以上4億円未満 | 42×(年間平均完成工事高)÷100000+716 |
2億5000万円以上3億円未満 | 24×(年間平均完成工事高)÷50000+698 |
2億円以上2億5000万円未満 | 28×(年間平均完成工事高)÷50000+678 |
1億5000万円以上2億円未満 | 34×(年間平均完成工事高)÷50000+654 |
1億2000万円以上1億5000万円未満 | 26×(年間平均完成工事高)÷30000+626 |
1億円以上1億2000万円未満 | 19×(年間平均完成工事高)÷20000+616 |
8000万円以上1億円未満 | 22×(年間平均完成工事高)÷20000+601 |
8000万円未満は省略 | ・・・・・ |
※小数点以下、切り捨て
例えば、とび工事の年間平均完成工事高が2億8000万円の場合。2億8000万円は、上図の「2億5000万円以上3億円未満」に該当しますので「24×280000(千円単位)÷50000+698=832点」がX1の点数になります。また、塗装工事の年間平均完成工事高が9000万円の場合。9000万円は上図の「8000万円以上1億円未満」に該当しますので「22×90000(千円単位)÷20000+601=700点」がX1の点数になります。
このようにX1の点数は、上記の表にあてはめて、算出することができます。
3:2年平均か?3年平均か?
工事種類別年間平均完成工事高(X1)は「年間平均」とあるように「過去2年間の完成工事高の平均」もしくは「過去3年間の完成工事高の平均」のどちらかを選択することができます。つまり、自分の会社にとって、有利な方(=完成工事高の高い方)を選択することができるのです。
次の表は、とある会社の過去3年間の内装工事の売上高の推移を表したものです。
年度 | 内装工事の売上高 |
---|---|
前々期 | 1億2000万円 |
前期(前回の経審) | 8000万円 |
今期(今回の経審) | 1億1000万円 |
前回の経審で、2年平均を採用していた場合、内装工事の工事種類別年間平均完成工事高は、1億円((1億2000万円+8000万円)÷2年)です。今期の売上が、1億1000万円だとした場合、何も考えず、前回と同様の2年平均を選択すると、今回、経審を受ける際の内装工事の工事種類別年間平均完成工事高は(8000万円+1億1000万円)÷2年=9500万円となってしまいます。
一方で、今回の経審で3年平均を選択すれば「(1億2000万円+8000万円+1億1000万円)÷3年=1億333万円」になります。2年平均を採用したほうがよいか?3年平均を採用したほうがよいか?は一目瞭然ですね。
このように、工事種類別年間平均完成工事高(X1)は、2年平均を選択するか?3年平均を選択するか?自社にとって有利な方を選べるということを理解しておきましょう。「前回まで2年平均で書類を作っていたから」とか「ずっと3年平均で経審を受けていたから」といった理由で、機械的に作業をしていると、損をすることになります。惰性で経審を受けていると意外に気付かないところですが、P点をアップさせるための方法は、こういうところにも隠れています。
なお、2年平均か?3年平均か?を選択する際の注意点として「2年平均を選択するか?3年平均を選択するか?」は、すべての業種で統一しなければなりません。業種ごとに2年平均を選択したり、3年平均を選択したりすることはできません。例えば、内装工事と建築一式工事で経審を受ける会社が「内装工事は2年平均を選択し、建築一式工事は3年平均を選択する」といったように、申請する業種ごとに2年平均か?3年平均か?を選択することはできないのです。
自社にとって、どちらが有利かを判断し、内装工事・建築一式工事ともに2年平均にするか、もしくは内装工事・建築一式工事ともに3年平均にするかを選択することになります。
4:完成工事高は、振替ができる!?
工事種類別年間平均完成工事高(X1)の最後に、意外と知られていないノウハウを1つご紹介したいと思います。それは、完成工事高の「振替」についてです。都や県によって「振替」だったり「積み上げ」だったり「移行」だったり、さまざまで表現がなされていますが、本書では都の手引きに従って「振替」という表現で統一したいと思います。
実は、経審を受ける際には、「特定の工事業種の売上」を「他の工事業種の売上」に振り替えることができます。下記表は、東京都が発行している手引きを参考にしたものです。
振替先の一式工事 | ← | 振替元の専門工事 |
---|---|---|
土木一式工事 | ← | とび、石、タイル、鋼構造物、鉄筋、舗装、しゅんせつ、水道施設 |
建築一式工事 | ← | 大工、左官、とび、屋根、タイル、鋼構造物、鉄筋、板金、ガラス、塗装、防水、内装、建具、解体 |
土木系の専門工事の売上高は、土木一式工事の売上高に振り替えることができます。建築系の専門工事の売上高は、建築一式工事の売上高に振り替えることができます。原則として各専門工事間の振替は、認められておらず、例えば、左官工事の売上を大工工事に振り替えるようなことはできません。ただし、以下のような相互に関連性のある専門工事間については、例外的に「専門工事間の振替」も認められています。
各専門工事間の振替 | ||
---|---|---|
電気 | ⇔ | 電気通信 |
管 | ⇔ | 熱絶縁 |
管 | ⇔ | 水道施設 |
とび | ⇔ | 石 |
とび | ⇔ | 造園 |
この「振替」を利用することによって、
- 塗装の完成工事高→8000万円
- 防水の完成工事高→4000万円
- 内装の完成工事高→5000万円
といった会社が、
- 建築一式工事の完成工事高→1億7000万円
として経審を受けることができるようになります。
もちろん、塗装工事、防水工事、内装工事の各専門工事で個別に経審を受けても問題ありませんが、公共工事の発注者(都や県)が、建築一式工事のP点をより重視するような場合には、塗装、防水、内装の各工事の売上高を、建築一式工事に振り替えて経審を受けた方が、断然、有利であると言えそうです。
X1(工事種類別年間平均完成工事高)の、完工高の「振替」については、P点アップのためのノウハウとしてぜひ、押さえておくようにしてください。但し、この完成工事高の振替については、いくつかの注意点があります(この部分については、各自治体によって、かなり違いがあるようですので、必ず、手引き等で確認するようにしてください。以下の注意点は、東京都の手引きを参考にしています)。
- まず、振替元、振替先の業種は、建設業許可を持っている業種であることが必要です。建設業許可を持っていない工事業種を他の業種に振り替えて経審を受けることはできません。
- 次に、振替を行った際には、振替元の業種では経審を受けることができません。例えば、内装工事の売上高を建築一式工事に振り替えた場合、内装工事で経審を受けることはできなくなります。
- また、振替の際に、売上高の一部のみを振り替えるということはできません。例えば、とび工事の売上高1億円のうち、8000万円を土木一式工事に振り替え、残りの2000万円をとび工事に残すといったようなことはできません。
このように振替の仕方については、様々な制限(ルール)があるので、ルールを熟知したうえで、P点アップのための振替を行うようにしましょう。
【5】自己資本額および平均利益額(X2)
1:X2の意味
自己資本額および平均利益額(X2)は、前述した工事種類別年間平均完成工事高(X1)と同様に、会社の経営規模を測る審査項目としてP点を算出する際に用いられます。自己資本額や平均利益額が、高ければ高いほど、P点が高くなります。P点全体に占めるX2の割合は、15%です。
X2の点数は「自己資本額の点数」と「平均利益額の点数」をそれぞれ算出したうえで「(自己資本額の点数+平均利益額の点数)÷2」という計算式によって算出されます。
自己資本額および平均利益額(X2)については、初心者を対象にした本書では、簡単に触れるにとどめておきたいと思います。なぜなら
- (ア)X2の点数を算出するための「資本」「利益」は、ともに経営規模の大きい大会社に有利に働く傾向が強いこと
- (イ)X2のP点全体に占める割合が15%と低いこと
- (ウ)自己資本額は(増資をする場合を除いて)短期的に増やすのが難しく、長期的な視点が必要なこと
といった3つの点で、中小企業が行える対策には限りがあるからです。このように経審の中身の理解においては、優先度をつけて、影響の大きい審査項目に絞って理解していくことも、重要であると思います。
2:自己資本額
「自己資本額」とは、貸借対照表の「純資産の額」をいいます。この「自己資本額」については「基準決算」と「2期平均」のどちらかを選択して申請することができます。自己資本額は、高ければ高いほど、P点が上がりますので、直前決算単年のほうが純資産の額が高いのであれば「1.基準決算」を選択し、直前決算の額を記入します。直前々決算と直前決算の2期分を平均したほうが高いのであれば「2.2期平均」を選択し、2期分の平均値を記入して申請することになります。
3:平均利益額
平均利益額とは、利払前税引前償却前利益のことを言います。具体的には、営業利益に減価償却実施額を足した額を言います。自己資本の額は、単年か2期平均かを選ぶことができましたが、平均利益額については、単年か2期平均かを選ぶことはできず、必ず2期平均の額で申請することになります。
- 審査対象事業年度の「営業利益」が800万円、「減価償却実施額」が100万円
- 前審査対象事業年度の「営業利益」が600万円、「減価償却実施額」が200万円
の場合、4つの数字を合計して2で割った数字が、「平均利益額」になります。たとえば、以下の表のようなケースでは、平均利益額は8,500千円になります(平均利益額=(8,000+1,000+6,000+2,000)÷4=4,250)。
審査対象事業年度 | 前審査対象事業年度 |
---|---|
営業利益:8000千円 | 営業利益:6000千円 |
減価償却実施額:1000千円 | 減価償却実施額:2000千円 |
【6】技術職員数および工事種類別年間平均元請完成工事高(Z)
1:Zの意味
Zは「技術職員の数」および「工事種類別の年間平均元請完成工事高」を点数化して、申請会社の技術力を評価する審査項目です。
2:Zの点数の出し方
Zの点数は「技術職員数」の点数を数値化したもの、および「工事種類別の年間平均元請完成工事高」の点数を数値化したものによって、算出します(※小数点以下、切り捨て)。
- Z点=(技術職員数の点数×0.8)+(工事種類別年間平均元請完成工事高の点数×0.2)
Zに関しては、経審を受ける際の技術職員に関するルールや中身について理解することが重要です。初心者の方が躓きやすいのが、技術職員名簿の記載の仕方や、どの資格を使えば点数が高くなるのか?といった知識に関する部分だからです。そこで以下では、工事種類別年間平均元請完成工事高について、ごく簡単に触れたあとに、経審を受ける際の技術職員のルールをメインに、記載していきたいと思います。
3:工事種類別年間平均元請完成工事高
完成工事高については、X1でも出てきましたが、X1(工事種類別年間平均完成工事高)では、会社の「経営規模」を計るための指標として「元請」「下請」に関係なく完成工事高を用いていました。一方で、Zの審査項目である「工事種類別年間平均元請完成工事高」は、2年平均もしくは3年平均の工事種類別の完成工事高のうち、元請部分に絞って、評価の対象にしている点がX1とは異なります。経審では、この元請完成工事高が多ければ多いほど、「技術力」のある会社として評価されることになります。
ZでもX1の時と同様、2年平均か3年平均か?を選択することによって、自社に有利な元請工事の平均額を選択することができます。ただし「X1では2年平均を採用したのに、Zでは3年平均を採用する」といったような選択をすることはできず、X1とZとでは、選択する年数を統一しなければなりません。また、完成工事高の振替のルールについても、X1の時と同様です。
4:技術職員数
(1)技術職員の区分(技術職員数値)
技術職員数については、まずは、下記の区分によって、技術職員数値を算出します。
点数 | 技術職員区分 |
---|---|
6点 | 1級の資格者で、監理技術者資格者証の交付を受けており、かつ監理技術者講習を受講しているもの |
5点 | 1級の資格者(1級建築施工管理技士など)で、上記以外のもの |
4点 | 監理技術者補佐(1級技士補) |
3点 | 基幹技能者等(登録基幹技能者講習の修了者など) |
2点 | 2級技術者(2級建築士など) |
1点 | その他技術者(実務経験10年の主任技術者など) |
技術職員数値= 1級監理受講者数×6+1級技術者数×5+1級技士補×4+基幹技能者×3+2級技術者×2+その他技術者×1 |
実務経験しかない技術者よりも、2級技術者のほうが有利で、2級技術者よりも1級技術者のほうが有利といったよう、難易度や専門性に応じて、技術職員に与えられる点数が区分けされています。経審で良い点数を取りたいという会社は、率先して資格者を採用したり、社内において資格取得を奨励するなどして、資格者の数(とりわけ1級資格者の数)を増やしていくことをお勧めします。
(2)技術職員数の点数
さらに、上記の計算式によって算出された技術職員数値を下記表にあてはめて「技術職員数の点数」を割り出します(・・・・・の箇所は一部省略)。
技術職員数値 | 点数 |
---|---|
・・・・・ | ・・・・・ |
230以上300未満 | 63×(技術職員数値)÷70+1119 |
180以上230未満 | 62×(技術職員数値)÷50+1040 |
140以上180未満 | 62×(技術職員数値)÷40+984 |
・・・・・ | ・・・・・ |
40以上50未満 | 63×(技術職員数値)÷10+633 |
30以上40未満 | 63×(技術職員数値)÷10+633 |
20以上30未満 | 62×(技術職員数値)÷10+636 |
15以上20未満 | 63×(技術職員数値)÷5+508 |
10以上15未満 | 62×(技術職員数値)÷5+511 |
5以上10未満 | 63×(技術職員数値)÷5+509 |
5未満 | 62×(技術職員数値)÷5+510 |
※少数点以下、切り捨て
このように、技術職員数の点数は「(1)で計算した技術職員数値を(2)の表にあてはめる」といった2段階を経て、算出することになります。
例えば、2級管工事施工管理技士が4名いる会社の場合、技術職員数値は8点(4名×2)、技術職員数の点数は609点(63×8÷5+509)になります。
5:技術者の点数が加算される仕組み/1人2業種まで
技術者の点数が加算される仕組みを理解するうえで、1番大事なのは「1人の技術者について加点となる業種の範囲は2業種まで」とうルールです。具体例を挙げてみていきたいと思います。
例えば、1級土木施工管理技士の資格を持っている技術者は「土」「と」「石」「鋼」「舗」「しゅ」「塗」「水」「解」(「解」については例外あり)の全9業種で評価の対象になりえます。しかし、1人の技術者が加点対象となる業種は2業種までですので、上記9業種の中から2業種を選択しなければなりません。
同様に1級建築士の資格を持っている技術者は「建」「大」「屋」「タ」「鋼」「内」の全6業種で評価の対象になりえますが、この場合も1人の技術者が加点対象となる業種は2業種までなので、加点する業種を上記のうちから2つに絞って申請する必要があります。
では、仮に1人の技術者が1級土木施工管理技士の資格と1級建築士の資格の両方を保有していたとしたらどうでしょう?この技術者は「土」「と」「石」「鋼」「舗」「しゅ」「塗」「水」「解」「建」「大」「屋」「タ」「内」の全14業種で評価の対象になりえますが、1人の技術者が複数の国家資格を持っていたとしても、やはり1人の技術者が加点対象となる業種は2業種までですので、仮に「土」「と」を選択した場合、他の業種で加点対象となることはありません。
このように、どの技術者が何の資格を持っていて、どの業種で加点されるかを検討することは、P点を上げるうえにおいて、大事な戦略です。
また、何らかの資格を持っていないと、技術職員名簿に掲載することができないと勘違いされている方もいるようですが、仮に資格を持っていなかったとしても、
- 特殊な学科(指定学科)を卒業し3年または5年以上の実務経験がある技術職員
- 10年以上の実務経験がある技術職員
については、技術職員名簿に記載し、経審の加点事由として評価されることが可能です。資格者に比べると点数は低くなってしまいますが、資格を持っていなくても実務経験が豊富な技術職員がいないか確認をしてみて下さい。
6:技術職員は6か月を超える期間、常勤していることが必要
経審で点数アップの対象となる技術職員は、審査基準日から遡って6か月を超える期間、会社に常勤していることが必要です。Zは、会社の技術力を審査するための項目ですので、申請会社に常勤していない技術職員がどんなにいたって、会社の技術力を推し量ることはできないからです。技術職員は審査基準日から6か月を超える期間、常勤している職員でなければならないといったルールを忘れないでください。
それでは、技術職員の常勤性はどのような資料で証明するのでしょうか?経審の際に、技術職員の常勤性を証明する書類として一般的に用いられるのが「健康保険・厚生年金保険被保険者標準決定通知書」です。「健康保険・厚生年金保険被保険者標準決定通知書」は、毎年7月上旬ごろに算定基礎届を年金事務所に提出することによって、取得することができます。
(1)算定基礎届を出していなかったケース
この算定基礎届を提出していないと「健康保険・厚生年金保険被保険者標準決定通知書」を取得できないため、技術職員の常勤性を証明することができません。そうすると、経審を受けることができません。このようなことがないように、経審を受ける会社は、建設業許可関連以外の各役所への届出事項もしっかりと期限を守るように注意をしてください。
(2)名義貸しが疑われるケース
これは東京都独自のルールかもしれませんが、東京都は、経審を受ける際に、技術職員名簿に記載するか否かにかかわらず、常勤役員等(旧:経営業務管理責任者)および専任技術者の常勤性の確認を行います。経審を受ける際に、建設業許可の要件(経管・専技の常勤性)を満たしているかどうかもチェックするためだそうです。
建設業許可を維持するには経管・専技が会社に常勤していなければなりません。会社に常勤しているのであれば「健康保険・厚生年金保険被保険者標準決定通知書」に名前が載ってくるはずですが、名前がない場合には、名義貸しが疑われます。また、経管・専技の標準報酬月額が極端に少ない場合にも、本当に会社に常勤しているのか?といった疑義が生じるケースに当たるでしょう。
経審を受けて、公共工事を受注しようとしている会社が名義貸しなどするわけがないと思いますが、このような場合、経審を受けることができないばかりか、建設業許可を維持することができませんので、十分に注意してください。
7:技術職員を増やすタイミングは?
経審を受けようとする会社は、新たに技術職員を採用するタイミングについても、工夫が必要です。経審の際に、加点事由となる技術職員は、審査基準日から遡って6か月を超える期間、会社に常勤している必要があることは前述しました。
例えば、3月末決算の会社の場合、3月末から遡って6か月を超える期間、すなわち前年の9月30日以前に会社に常勤していれば、その技術職員を、経審の際の加点事由にすることができます。一方で仮に、10月1日に新しい技術職員を採用した場合だと、審査基準日である翌年3月末日から遡って、ちょうど6か月であるため「6か月を超える」という条件に該当しません。この場合には、この技術職員を技術職員名簿に掲載して経審の加点事由にすることはできないのです。
たった1日の違いで、経審の加点事由になるのか?ならないのか?の明暗が分かれてしまうことになります。技術職員を採用するタイミングは、会社によってそれぞれだと思いますが、経審のZ点アップのためには「審査基準日から遡って6か月を超える常勤」となるように逆算して採用スケジュールを検討してみるとよいでしょう。
8:新しく雇うなら若い方
また、新しく技術職員を採用するなら、若い方を優先して採用するのも経審の点数アップのために有効な対策といえます。経審では、若年技術職員の継続的な育成及び確保の見地から、審査基準日時点における35才未満の技術職員の人数が、名簿全体の技術職員の人数の15%以上だと、加点事由になっています。
若くてフレッシュな技術職員を採用することによって、会社に活気があふれるのみならず、経審対策にもなるわけですから、採用を検討している会社は、頭の片隅に入れておいてください。
9:出向社員は加点事由の対象になるか?
技術職員名簿の記載に関しては、出向社員の存在も問題になります。同じグループ会社や関連企業(出向元)から出向している出向者は、出向先の技術職員として経審の加点事由になるのでしょうか?
結論から言うと、出向社員でも技術職員名簿に記載することによって加点対象にすることができます。出向社員だからと言って「経審の加点事由にはならない。技術職員名簿に記載することはできない。」といったことはありませんので、安心してください。但し、出向社員の場合には、出向先での常勤性を証明する資料として「出向協定書」や「出向元会社が証明する出向証明書」などの資料が別途必要になります。
出向社員が出向先で6か月を超える期間(6か月以上ではありません)常勤していることが証明できれば、経審の加点事由になりますので、この点についても、押さえておいてください。
【7】その他の審査項目(社会性等)(W)
1:Wの意味
ここまでY(経営状況)、Ⅹ1・X2(ともに経営規模)、Z(技術力)について説明してきましたが、ここで説明する「その他の審査項目(W)」は「その他の・・・」という名称の通り「建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況」や「建設業の営業状況」や「建設機械の保有状況」など、XやYやZに当てはまらない審査項目です。
下記の表にある通り「建設業の経理の状況」「防災活動への貢献の状況」「法令遵守の状況」など、Wの審査項目は多岐にわたります。
その他審査項目(社会性など) | |
---|---|
建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況(W1) | ・雇用保険の加入の有無
・健康保険の加入の有無 ・厚生年金保険の加入の有無 ・建設業退職金共済制度加入の有無 ・退職一時金制度若しくは企業年金制度導入の有無 ・法定外労働災害補償制度加入の有無 |
建設業の営業継続の状況(W2) | ・営業年数
・民事再生法又は会社更生法の適用の有無 |
防災活動への貢献の状況(W3) | ・防災協定の締結の有無 |
法令遵守の状況(W4) | ・営業停止処分の有無
・指示処分の有無 |
建設業の経理の状況(W5) | ・監査の受審状況
・公認会計士等の数 ・二級登録経理試験合格者の数 |
研究開発の状況(W6) | ・研究開発費 |
建設機械の保有状況(W7) | ・建設機械の保有及びリース台数 |
国際標準化機構が定めた規格による登録の状況(W8) | ・ISO9001の登録の有無
・ISO14001の登録の有無 |
W点は、
- W1~W8の各項目で与えられた点数の合計×10×175÷200
という計算式によって算出することができます。
このように多岐にわたるWの審査項目ですが、初心者の皆さんが理解しておくべきことは、限られてきます。以下ではとくに重要な、
- 建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況(W1)
- 防災活動への貢献の状況(W3)
- 建設機械の保有状況(W7)
について見ていきたいと思います。
2:優先すべきは3つの制度への加入
Wの中で絶対に外せないのは、「建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況(W1)」の中にある「建設業退職金共済制度への加入」「退職一時金制度もしくは企業年金制度の導入」「法定外労働災害補償制度への加入」の3点です。本書では、3つの制度の詳細についての説明は、割愛させて頂きますが、なぜ、3つの制度への加入が重要なのでしょうか?
退職金制度の導入などを行うことによって、従業員の労働環境の充実という点が挙げられますが、そういった視点とは別に、経審を受ける会社が3つの制度への加入を優先させるべき理由は、ずばり、制度への加入(導入)自体が、P点アップの対策として即効性のある対策と言えるからです。
上記3つの制度への加入は、Wの中の「W1」の審査項目に該当します。そして、いずれかの制度に加入していると15点の点数が付与されます。3つの制度に加入しているとW1に45点加点されます。
W点は、「W1~W8の合計×10×175÷200」という計算式によって算出されますから、W1に45点加算されるということは、W評点に換算すると393点(45×10×175÷200、小数点以下切り捨て)になります。さらに、総合評定値P点を算出するための計算式は、0.25(Ⅹ1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)ですから、P点に換算すると59点(393×0.15、小数点以下四捨五入)になります。
説明のために、計算式を用いましたが、計算式が出てくるとかえってややこしくなるかもしれませんね。
要は、上記3つの制度に加入しているとP点が59点もアップするということです。これが、どれだけすごいことか?工事種類別年間平均完成工事高(X1)と比較してみるとわかると思います。
仮に、工事種類別年間平均完成工事高が8000万円の会社が、その業種で完成工事高を1億2000万円(1.5倍)に伸ばしたとしても、当該業種でのP点は、10点しか上がりません。また、仮に、工事種類別年間平均完成工事高が2億円の会社が、その業種で完成工事高を4億円(2倍)にしたとしても、当該業種でのP点は、24点しか上がりません。短期間のうちに特定の業種で売上高を1.5~2倍にするのは、とても困難なことです。特定の業種で売上高をアップさせることができたとしても、他の業種で売上高がダウンするかもしれません。
一方で、Wでは、特定の業種に限らず、申請しているすべての業種を対象に59点のP点アップが見込めるわけですから、加入しない手はありません。
経審の点数をアップするには「売上高を増やすしかないんじゃ!」という根性論を耳にします。しかし、売上高を増やすには、時間も労力も必要で一朝一夕にはいきません。他方、建退協への加入や、自社退職金制度の整備などは、比較的簡単に取り組めると思います。経審を受ける際には、売上高を上げるよりも、より優先度の高い対策があるということも覚えておいてください。
なお、経審は審査基準日を対象に審査しますので、上記3つの制度には審査基準日時点で加入していなければなりません。例えば、3月末決算の会社が、5月に納税申告を済ませ、6月から経審の準備をし、9月に経審を受けることになったと仮定した場合。9月に経審を受ける際に審査されるのは、あくまでも3月31日時点での会社の状況ですので、4月以降に上記の3つの制度に加入しても、(9月に受ける)今回の経審では加点対象とはなりません。
次回の経審の際には、加点対象になるかもしれませんが、今回(9月)の経審で評価されるには「3月31日以前に加入していなければならなかった」ということになります。制度加入への時期についても注意してください。
3:建設機械の保有状況
Wの中には「建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況(W1)」のほかにも様々な審査項目があります。次に、説明するのは「建設機械の保有状況(W7)」についてです。経審を受ける際には、下記の建設機械を保有またはリースしていると点数がアップします。
名称 | 詳細 |
---|---|
ショベル系掘削機 | ショベル、バックホウ、ドラグライン、クラムシェル、クレーン又はパイルドライバーのアタッチメントを有するもの |
ブルドーザー | 自重が3トン以上のもの |
トラクターショベル | バケットの容量が0.4立方メートル以上のもの |
モーターグレーダー | 自重が5トン以上のもの |
大型ダンプ車 | 土砂等を運搬する大型自動車のうち最大積載容量が5トン以上又は車両総重量が8トンをこえるもの |
移動式クレーン | つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン |
これらの建設機械は、地震や洪水といった災害の際に、建設機械を使用することができ、地域の防災の観点から社会への貢献度が高いので、経審の際の加点事由としてWの審査項目になっています。建設機械の保有状況(W7)は、保有またはリースの台数に応じて点数が割り振られます。
建設機械の所有及びリース台数 | 台数に応じた点数 |
---|---|
15台以上 | 15 |
14台 | 15 |
13台 | 14 |
12台 | 14 |
11台 | 13 |
10台 | 13 |
9台 | 12 |
8台 | 12 |
7台 | 11 |
6台 | 10 |
5台 | 9 |
4台 | 8 |
3台 | 7 |
2台 | 6 |
1台 | 5 |
なお、建設機械の保有台数が、評価されるのは最大でも15台までです。20台あっても30台あっても「台数に応じた点数」の上限は15点です。経審の際には、売買契約書、リース契約書、自動車検査証、特定自主検査記録表といった建設機械の保有やリースを証明する書類の提示が必要になりますので、契約書などの管理も怠らないようにしましょう。
4:意外と多い防災協定
公共工事を落札している会社の中で、意外と多いのが防災協定を締結している会社です。自治体との間で「災害時における応急救助活動を行う」といった協定を締結していると、W3の点数として20点が与えられます。
自治体と会社との間で直接協定を結ぶ場合はもちろんのこと「自治体と協定を締結している建設業者団体」に加入することによっても、緊急時の防災活動に一定の役割を果たすことが証明できれば、加点の対象になります。防災協定の点数も、非常に大きい点数です。「3つの制度加入」と同様、審査基準日時点で協定を締結しているか否かが加点の基準となります。経審の審査が行われる日に締結しているか否かではなく、審査基準日に締結しているか否かという点が重要です。
最後までお読みいただきありがとうございます。「第2章:内容編~仕組みや重要ポイントの解説~」は、ここまでです。経営事項審査のP点の算出方法や、X1、X2、Y、Z、Wについて、重要ポイントを把握できましたか?
「第2章:内容編」と同様に「第1章:手続編」「第3章:事例編」も、以下のページに公開しています。続きをご覧になりたい方は、ぜひ、以下のリンクからお進みください。