経営事項審査の際には、「経営規模(X1・X2)」「技術力(Z)」「社会性(W)」「経営状況(Y)」の4つの項目が評価の対象になり、総合評定値P点が算出されます。総合評定値P点は、以下の計算式で算出されます。
総合評定値(P点) | 0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W) |
---|
X1は「業種別完成工事高」、X2は「自己資本額+利益額」、Zは「業種別元請完成工事高+技術職員数」、Wは「退職金制度や営業年数など」といったように、おおまかな理解をされている人も多いと思います。では、「Y」は、どういった方法で算出されるのでしょうか?
Y点は、経営状況分析の結果の点数ですが、総合評定値(P点)は、Y点も加味して算出されることが、上記の計算式から見て取れます。ただ、経営状況分析の結果であるY点は、「何が審査の対象になるのか?」よくわからないという人も多いと思います。
審査区分 | 記号 | 審査項目 |
---|---|---|
経営規模 |
X1 | 業種別完成工事高 |
X2 | 自己資本額/利払前税引前償却前利益の額 | |
技術力 | Z | 技術職員数/元請完成工事高 |
社会性など | W | 建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況など |
経営状況 | Y | 負債抵抗力/収益性・効率性/財務健全性/絶対的力量 |
実際にYの審査項目は「負債抵抗力」「収益性・効率性」「財務健全性」「絶対的力量」と今まで聞いたことがないような言葉が並びます。とはいうものの、Y評点は、P点の構成要素のうち20%を占める重要な項目ですから、「わからないからと言って何も対策をしない」というのでは、もったいです。
そこで、このページでは、経営事項審査を受ける際に必須である経営状況分析(Y評点)の中身について、それぞれの審査項目の意味や仕組みについて、詳しく解説していきたいと思います。
経営状況分析とは
そもそも「経営状況分析」とは、何なのでしょうか?経営状況分析の中身の解説に入る前に、経営状況分析の意味・概要について解説をしていきます。
経営状況分析は、いつ行う?
経営状況分析は、経営事項審査の前に、受けなければなりません。つまり、順番としては「経営状況分析が前」「経営事項審査が後」という順番になります。
なぜ、経営状況分析を受けなければならない?
それでは、なぜ、経営事項審査を受ける前に、経営状況分析を受けなければならないのでしょうか?
そもそも経営事項審査は、入札参加資格を取得するために必要な総合評定値(P点)を算出するために行われる手続きです。公共工事の入札に参加したい会社は、東京都や神奈川県など、各自治体の入札参加資格を取得するわけですが、自治体ごとの等級格付けのために、総合評定値(P点)が必要になります。入札参加資格を取得する会社は、入札参加資格を申請する前(等級格付けが行われる前)に経営事項審査を受審してP点を取得しておく必要があるのです。
それでは、経営事項審査の結果である総合評定値(P点)が、どのように算出されるのか?というと、総合評定値(P点)は、以下の計算式によって算出されます。
総合評定値(P点) | 0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W) |
---|
ご覧の通り、総合評定値(P点)は、Y点(=経営状況分析の結果の点数)を加味して算出されます。別の言い方をすると、P点の構成要素としてY点が必要なわけです。
ここまで説明すれば、もうお分かりですね。経営状況分析(Y点)は、経営事項審査の結果である総合評定値P点を算出するために、欠かせない要素です。そのため、手続きの順番としては、「経営状況分析を受けてから、経営事項審査を受ける」という流れになるのです。
経営状況分析は、どこで受ける?
それでは、経営状況分析は、誰が行うのでしょうか?別の言い方をすると、どこで受けるのでしょうか?建設業許可に関する手続きや経営事項審査に関する手続きは、「許可行政庁」が行うという認識で問題ありません。例えば、東京都知事許可の建設会社であれば、東京都庁に建設業許可の書類や経営事項審査の書類を提出します。
一方で、経営状況分析は、国土交通大臣の登録を受けた「登録経営状況分析機関」によって行われます。都庁や県庁や関東地方整備局といった行政庁に提出するわけではありません。登録経営状況分析機関には、以下の機関があります。
(一財)建設業情報管理センター | (株)ネットコア |
(株)マネージメント・データ・リサーチ | (株)経営状況分析センター |
ワイズ公共データシステム(株) | 経営状況分析センター西日本(株) |
(株)九州経営情報分析センター | (株)NKB |
(株)北海道経営情報センター | (株)建設業経営情報分析センター |
経営状況分析に必要な書類は?
経営事項審査を受けるには、事前に経営状況分析が必要であるということが分かったとして、経営状況分析を受けるには、どのようは書類が必要になるのか?気になるところです。そこで、以下では、標準的な必要書類について、各登録経営状況分析機関から発行されている手引きを参考に一覧表にしましたので、ご参考にしてください。
書類名 | 備考 |
---|---|
経営状況分析申請書 | 経営状況分析を申請するために必要な書類です。どの分析機関でもホームページ上に記載例を掲載していますので、記載例に沿って、間違いのないように記入することが必要です。 |
財務諸表 | ここでいう財務諸表は、税理士が作成した税務申告用の財務諸表ではなく、建設業法用に書きなおした財務諸表(貸借対照表、損益計算書、完成工事原価報告書、株主資本等変動計算書、注記表など)のことを言います。
経営状況分析の際に提出する財務諸表は、税抜表記が原則です。 |
税務申告書 | 「減価償却実施額」を確認するために、別表の16(1)と16(2)が必要になります。 |
建設業許可通知書 | 許可行政庁から発行されている建設業許可の通知書のことです。 |
委任状 | 行政書士に手続きを委任する場合には、委任状も必要になります。 |
経営状況分析では、何が行われる?
ここまで、「経営状況分析は、いつ行うか?」「なぜ、受けなければならないか?」「どこで受けるか?」「必要な書類は何か?」について、説明してきましたが、実際のところ、経営状況分析では「何」が行われるのでしょうか?どういったことが分析されているのでしょうか?
この点について、端的に説明すると、経営状況分析では、上記で提出した必要書類をもとに、その会社の「財務状況」が審査の対象になります。経営状況分析の際に、財務諸表や税務申告書が必要になるのは、その会社の財務状況を確認し分析するためです。以下では、経営状況分析で行われる審査を「より具体的に」解説していきたいと思います。
1.負債抵抗力
「負債抵抗力」とは、その名の通り「会社の中に、どれくらいの負債があるか?」をあらわした指標です。「純支払利息比率」「負債回転期間」の2つからなります。
純支払利息比率は、売上金に対して、実質的な利息負担額(支払利息・受取利息配当金の差額)がどれだけあるか?を計算します。支払利息は、借入金に対して発生する利息ですので、純支払利息比率は、借入金が少ない方がよい結果になります。
負債回転期間は、長期負債や短期負債といった負債の合計が、月商(売上高÷12)に対して、どれくらいあるか?を表す指標です。例えば、負債合計が10,000千円・売上高(月商)10,000千円の場合、負債回転期間は、「1」になります。これに対して、負債合計額が50,000千円・売上高(月商)20,000千円の場合、負債回転期間は、「2.5」になります。
前者は1か月分の月商ですべての負債を返済できるのに対して、後者はすべての負債を返済し終えるのに2.5か月分の月商が必要になります。そのため、売上規模(月商)としては、前者の方が小さい(10,000千円<20,000千円)にも関わらず、負債回転期間でいうと前者の方が優良(点数がよい)という結果になります。
負債抵抗力 | ||
---|---|---|
純支払利息比率 | >>> (支払利息-受取利息配当金)÷売上金×100 | |
負債回転期間 | >>> 負債合計÷(売上高÷12) |
2.収益性・効率性
「収益性・効率性」は、どれだけ収益を上げているか?どれだけ効率よく稼げているか?をはかる指標です。効率よく収益を上げている会社のほうが財務状況がよいのは当たり前です。そのため、経営状況分析の1つの指標として、この「収益性・効率性」があるのです。「収益性・効率性」は、「総資本売上総利益率」と「売上高経常利益率」の2つからなります。
総資本売上総利益率とは、総資本(2期平均)に対して、売上総利益がどれくらいあるか?計算します。総資本は言い方を変えると「負債+純資産の合計」です。売上総利益は「売上高-売上原価」で、粗利とも言います。総資本に対して、売上総利益がどれくらいの割合を占めているのかを計算しています。
例えば、売上総利益がともに10,000千円のA社・B社があったとします。A社の総資本が10,000千円、B社の総資本が50,000千円だった場合、どちらの会社のほうが、財務状況がよいといえるでしょうか?総資本を比較するとA社の10,000千円に比べてB社の50,000千円の方が、資本がおおきく立派で規模の大きい会社のように見ることもできます。
しかし、A社は総資本10,000千円を1回転させて10,000千円の利益を出しているのに対して、B社は10,000千円の利益を出すのに、総資本50,000千円を0.2回転しかさせることができていません。現在持っている会社の総資本を1回転させて利益を出しているA社と、0.2回転しかさせることができていないB社とでは、当然、1回転させて利益を出せているA社の方が、「収益力」が高いと言えます。
そのため、このケースで、A社とB社を比較した場合、B社よりもA社の方が「収益性・効率性がある」と評価することができます。
売上高経常利益率とは、経常利益を売上高で割った割合です。経常利益は「売上高」から「売上原価・販管費・営業損失」を引いた額です。企業が通常行っている業務の中で、経常的に得られる利益のことを指します。この経常利益が売上高に占める割合が高ければ高いほど、収益力のある会社ということができます。
収益性・効率性 | ||
---|---|---|
総資本売上総利益率 | >>> 売上総利益÷総資本(2期平均)×100 | |
売上高経常利益率 | >>> 経常利益÷売上高×100 |
3.財務健全性
財務健全性とは、その名の通り、会社の財務の健全性を表す指標です。他人(他社)からの借り入れに頼らず、どれだけ自分のお金で事業を行えているかを表しています。そのため、財務健全性の指標が良いと倒産しにくく、会社が長続きしやすいということができます。
財務健全性は「自己資本対固定資産比率」と「自己資本比率」の2つからなります。
自己資本対固定資産比率は、固定資産を自己資本でどれだけまかなえているか?を表します。自己資本は端的にいうと「他人に返さなくてよいお金」のことです。固定資産には、機械・運搬具、土地、建物といったように比較的長い期間に渡って使用する金額の大きい資産です。「長い期間使用する金額の大きい資産」を他人からの借り入れで購入するのは、健全ではありません。固定資産の取得資金が自己資本によって調達されている方が良いので、「自己資本対固定資産比率」は、高い方がよくなります。
自己資本比率は、自己資本が総資本に占める割合を示す指標です。自己資本の額は、特定建設業許可を取得する際の財産的要件としても有名です。特定建設業許可を取得する際には、自己資本額は4,000万円以上あることが必要です。一般的には、自己資本比率は、30%を上回ると、業績のよい会社と評価を受けることができるように思います。
財務健全性 | ||
---|---|---|
自己資本対固定資産比率 | >>> 自己資本÷固定資産×100 | |
自己資本比率 | >>> 自己資本÷総資本×100 |
4.絶対的力量
絶対的力量は、「営業キャッシュフロー」と「利益剰余金」の2つからなります。「営業キャッシュフロー」は、「経常利益+減価償却費±引当金増減額-法人税住民税及び事業税±売掛債権増減額±仕入債務増減額±棚卸資産増減額±受入金増減額」という計算式によって求められます。「利益剰余金」は、貸借対照表の中にある「純資産の部」に記載されています。
「4.絶対的力量」は、「1.負債抵抗力」「2.収益性・効率性」「3.財務健全性」と異なり、相対的な割合が評価の対象になるのではなく、額そのものが絶対的評価の基準になります。すなわち、営業キャッシュフローの額、利益剰余金の額が、大きければ大きいほど、点数が高くなるという関係性にあります。
そのため、中小企業としては、対策のしにくい評価項目であり、大企業に有利に働く指標ということができます。
絶対的力量 | ||
---|---|---|
営業キャッシュフロー(絶対額) | >>> 営業キャッシュフロー÷1億円 | |
利益剰余金(絶対額) | >>> 利益剰余金÷1億円 |
経営状況分析の8指標の上限・下限と振れ幅
ここまで、経営状況分析の8つの指標について見てきました。計算式を一覧表にまとめると以下のようになります。
経営状況分析の8つの指標
負債抵抗力 | 純支払利息比率 | (支払利息-受取利息配当金)÷売上金×100 | |
---|---|---|---|
負債回転期間 | 負債合計÷(売上高÷12) | ||
収益性・効率性 | 総資本売上総利益率 | 売上総利益÷総資本(2期平均)×100 | |
売上高経常利益率 | 経常利益÷売上高×100 | ||
財務健全性 | 自己資本対固定資産比率 | 自己資本÷固定資産×100 | |
自己資本比率 | 自己資本÷総資本×100 | ||
絶対的力量 | 営業キャッシュフロー | 営業キャッシュフロー÷1億円 | |
利益剰余金 | 利益剰余金÷1億円 |
このような計算式が分かったところで、「それでは具体的にどういった対策があるのか?」が分からなければ、絵に描いた餅になってしまいます。そこで、以下では、経営状況分析の8つの指標の上限・下限をもとに、効率良くY点をアップさせる対策の優先順位について、説明をしていきたいと思います。
経営状況分析の8つの指標の上限・下限
経営状況分析の結果であるY点は、以下の計算式によって算出されます。
- Y点=167.3×A(経営状況点数)+583
そして、上記の「A(経営状況点数)」は、以下の計算式によって算出されます。
- A=-0.4650×X1-0.0508×X2+0.0264×X3+0.0277×X4+0.0011×X5+0.0089×X6+0.0818×X7+0.0172×X8+0.1906
それぞれの審査項目ごとに、上限値・下限値が設けられているので、その上限値・下限値を上記の計算式にあてはめて、Y点に換算し、Y点としての上限・下限を求めたのが、下の表です。太字部分の「Y点上限」と「Y点下限」が、それぞれ、経営状況分析の結果であるY点に換算したあとの、審査項目ごとの上限点、下限点になります。
審査項目 | 記号 | 上限値 | 下限値 | Y点上限 | Y点下限 |
---|---|---|---|---|---|
純支払利息比率 | X1 | -0.3% | 5.1% | 23.3 | -396.8 |
負債回転期間 | X2 | 0.9 | 18.0 | -7.6 | -153.0 |
総資本売上総利益率 | X3 | 63.6% | 6.5% | 280.9 | 28.7 |
売上高経常利益率 | X4 | 5.1% | -8.5% | 23.6 | -39.4 |
自己資本対固定資産比率 | X5 | 350.0% | -76.5% | 64.4 | -14.1 |
自己資本比率 | X6 | 68.5% | -68.6% | 102.0 | -102.1 |
営業キャッシュフロー | X7 | 15.0 | -10.0 | 205.3 | -136.9 |
利益剰余金 | X8 | 100.0 | -3.0 | 287.8 | -8.6 |
さらに、上の表の「Y点上限」「Y点下限」を審査項目ごとの棒グラフにしたのが、以下のグラフです。このグラフを見て、理解して頂きたいことは、X1~X8の各審査項目ごとの振れ幅の大きさの違いです。振れ幅の大きい審査項目ほど対策しやすく、振れ幅の小さい審査項目ほど対策しにくいということが言えます。
経営状況分析の結果であるY点をよくするための対策と優先順位
上で示した棒グラフを、「Y点への寄与度」ごとに一覧にしたのが、下記の表です。一番右端「Y点への寄与度」は、各審査項目が、どれだけY点に影響を与えているのかを示す数字です。たとえば、「負債抵抗力>純支払利息比率>X1」は、Y点への寄与度が29.9%なのに対して、「財務健全性>自己資本対固定資産比率>X5」は、Y点への寄与度が6.8%しかありません。
仮に、X1とX5のどちらの対策を優先するか?と考えた場合、Y点への寄与度が高いX1を優先すべきことが、上記の棒グラフや下記の一覧にあるY点への寄与度から理解できると思います。
属性 | 審査項目 | 記号 | Y点への寄与度 |
---|---|---|---|
負債抵抗力 | 純支払利息比率 | X1 | 29.9% |
負債回転期間 | X2 | 11.4% | |
収益性・効率性 | 総資本売上総利益率 | X3 | 21.4% |
売上高経常利益率 | X4 | 5.7% | |
財務健全性 | 自己資本対固定資産比率 | X5 | 6.8% |
自己資本比率 | X6 | 14.6% | |
絶対的力量 | 営業キャッシュフロー | X7 | 5.7% |
利益剰余金 | X8 | 4.4% |
それでは、より具体的に見ていくことにしましょう。
まず、上述しましたが、絶対的力量を表す指標、つまり「営業キャッシュフロー(X7)」と「利益剰余金(X8)」については、中小企業が対策を取るのは難しい指標と言えます。この絶対的力量は、その他の審査項目と異なり、「営業キャッシュフローの額」「利益剰余金の額」そのものが評価の対象となる絶対的審査項目だからです。例えば、中小企業が、10,000千円の利益剰余金をたたき出したとしても、100,000千円の利益剰余金がある大企業には、太刀打ちできないのです。
このように、絶対的力量(営業キャッシュフロー=X7、利益剰余金=X8)は、中小企業にとって、対策しにくい、もしくは、対策をするにしても優先順位が低い、審査項目であるということができます。
続いてX4(売上高経常利益率)とX5(自己資本対固定資産比率)の2つは、他の審査項目と比べて明らかに、振れ幅が小さいです。Y点への寄与度という観点からしても、X4が5.7%、X5が6.8%と小さいです。このことから、何らかの対策をとっても効果が出にくいので、対策するにしても優先順位は、「後」ということになります。
そこで、上記以外のX1、X2、X3、X6を見ていくことにしましょう。
純支払利息比率(X1)について
上記のグラフから、1番、振れ幅が大きいのは、「純支払利息比率(X1)」です。Y点への寄与度は、29.9%と1番大きいです。そのため、最優先で、対策を行わなければならない指標ということができます。純支払利息比率は、実質的な利息負担額が売上高に占める割合を示しています。実質的な利息負担額を減らすためにも、無駄な借り入れを減らす、保証会社の保証料が利息に含まれていないかを確認するなどの対策が必要になります。
負債回転期間(X2)について
負債回転期間も振れ幅が大きい(=対策が必要、もしくは、対策がしやすい)審査項目です。Y点への寄与度は11.4%と8つの中で、4番目に高い割合を示しています。負債回転期間を減らすには、純支払利息比率(X1)と同様に無駄な借り入れを減らすとともに、売上高をアップさせて、ひと月当たりの月商を増加させることが有効です。この負債回転期間の一番よい数値は0.9か月分、一番悪い数値は18か月分です。全体平均は、おおむね6か月分となっています。負債回転期間は、「負債合計÷(売上高÷12か月)」という比較的、理解しやすい計算式で算出することができますので、ぜひ、御社の財務諸表を使って、計算してみてください。
総資産売上総利益率(X3)について
総資産売上総利益率(X3)も、振れ幅が大きいので、対策が必要な審査項目です。Y点への寄与度は、21.4%と純支払利息比率(X1)に次いで、2番目となっています。総資産売上総利益率は、「売上総利益÷総資本(2期平均)×100」という計算によって算出されますので、「総資産売上総利益率」をよくするには、総資産を小さく、売上総利益を大きくする必要があります。
総資産を小さくするには、無駄な資産を処分する、長期貸付金など不明瞭な勘定科目を整理するという対策をとることが必要です。また、売上総利益を大きくするには、理由のない値引きや価格競争を行わず利益を確保できる適正な価格を維持すること、かつ、原価の割合を下げることによって、粗利を確保することが挙げられます。
自己資本比率(X6)について
自己資本比率(X6)は、Y点への寄与度でいうと、14.6%と全体の3番目に位置していますので、対策を講じておく必要がありそうです。自己資本比率は、総資本のうち、自己資本がどれくらいの割合を占めるか?を表す指標ですので、総資本を小さくする、自己資本を大きくすることによって、点数をよくすることができます。自己資本を増やすには、増資という方法も考えられますが、増資以外には、毎年毎年の経営活動によって純利益を作出し、その純利益を毎期継続して、積み増ししていくことが必要です。
総資本を減らすには、遊休資産を処分して負債の返済に回す、貸付金の回収に努めるなどの対策が考えられます。
経営状況分析(Y点)のまとめ
以上、経営事項審査における審査項目の1つである経営状況分析(Y評点)について、詳しく解説してきましたが、如何でしたでしょうか?
「経営状況分析」と聞くと、なんとなく『建設会社の財務状況の分析をしているのだな…』という程度の認識しかないかもしれません。しかし、それ以上に「負債抵抗力」「収益性・効率性」「財務健全性」「絶対的力量」の4つに分類され、さらに「負債抵抗力」は「純支払利息比率」と「負債回転期間」、「収益性・効率性」は「総資本売上総利益率」と「売上高経常利益率」、「財務健全性」は「自己資本対固定資産比率」と「自己資本比率」、「絶対的力量」は「営業キャッシュフロー」と「利益剰余金」に細分化されることがわかったと思います。
さらに、これらの細分化された指標は、Y点を算出する際に、一律に評価されるわけではありません。純支払利息比率(X1)は、Y点への寄与度が29.9%もあるのに対して、売上高経常利益率(X4)は、5.7%しかありません。どちらを重視すべきかは、一目瞭然です。決して、売上高経常利益率(X4)を無視して良いというわけではありませんが、経営状況分析もしくは経営事項審査に関しては、優先順位が低いということができます。
また、絶対的力量の2つ(「営業キャッシュフロー」と「利益剰余金」)は、中小企業にとっては、対策がしづらく、仮に対策をしたとしても、他の指標と比べ効果が出にくいものでした。
このように、一見すると、わかりにくい経営状況分析(Y点)ですが、細分化してみていくと、どこに力を入れればよいのかが分かると思います。
経営状況分析の結果であるY評点は、経営事項審査の結果である総合評定値P点の20%を占める評点です。経審のP点をアップさせるには、必ずY点の対策が必要であるといっても過言ではありません。このページに記載したことが、皆さんのY点アップ、ひいてはP点アップの参考にしていただければ幸いです。