「総合評定値P点をもっと上げたい」「P点があと○○点足りない」「どうやったら経審の結果がよくなるのか?」という声をよく聞きます。経営事項審査の結果である総合評定値P点は、公共工事の入札に直結する点数ですので、優れた経営者であればあるほど、その点数に敏感になることでしょう。一方で、インターネット上に溢れている情報が、「確かなものか?」というと、確認のしようがありません。
そこで、実際に多数の建設会社の経営事項審査の手続きを代行し、公共工事の落札に導いている行政書士法人スマートサイドの横内先生にお話を伺います。建設会社が公共工事を受注する際に重要となる「総合評定値P点の算出方法」と「点数アップの対策」について、第一線で活躍されている先生の「生の声」をお届けします。
総合評定値P点とは?
それでは、横内先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
はい。こちらこそよろしくお願いします。本日のインタビューのテーマが「総合評定値P点について」ということでしたので、まずは、経営事項審査などにも触れつつ簡単に、概略を説明をしていきたいと思います。
総合評定値P点は、経営事項審査の結果の点数のことを言います。理解されている建設会社さまは多いと思うのですが、経営事項審査を受けると、「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」が送られてきます。この「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」は、いわゆる経営事項審査の結果通知書にあたります。その結果通知書の中に、経審を受けた業種ごとの総合評定値P点が記載されています。
例えば、「建築一式工事=900点」「舗装工事=850点」「電気工事=600点」といったように、経営事項審査を受けた業種ごとに点数が記載されているわけです。「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」には、総合評定値P点のほかに「X1・X2・Y・Z・W」のそれぞれについて、評点が記載されています。
たくさんのローマ字の記号が出てくるんですね
はい。はじめての人は驚かれるかもしれませんが、記号の多さが経営事項審査をわかりにくくさせている要因の1つでもあります。話を先に進めますね。
X1は「業種別の完成工事高」を点数化したもの、X2は「資本金と利益額」を点数化したもの、Yは「経営状況」を点数化したもの、Zは「技術力」を点数化したもの、Wは「その他の社会性」を点数化したものを言います。たとえば、完成工事高が高ければ高いほどX1の点数は高くなります。また、技術者の人数が多ければ多いほどZの点数は高くなります。このあたりまではご理解いただけますね。
いま述べた「X1・X2・Y・Z・W」を総合考慮して計算した点数が、総合評定値P点になるのです。具体的な計算方法は、「X1×0.25+X2×0.15+Y×0.20+Z×0.25+W×0.15」になります。
総合評定値P点の算出方法
「X1×0.25+X2×0.15+Y×0.20+Z×0.25+W×0.15」?。かなり複雑な計算式ですね。この計算式を用いて総合評定値P点を算出しているのですか?
はい。
とても複雑な計算式ですが、上記の計算式を用いて、総合評定値P点を算出しています。経審の結果通知書である経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書がお手元にある人は、ぜひ、上記の計算式を使って、自社の総合評定値P点を算出してみて欲しいです。P点はもちろん、XやWは、すべて、結果通知書に記載されています。「X1×0.25+X2×0.15+Y×0.20+Z×0.25+W×0.15」という計算によって、P点が算出されていることがお分かりいただけると思います。
これはあくまでも私見ですが、総合評定値P点を算出するための計算がここまで複雑なのは、入札における公平性を担保するためであると考えています。公共工事をはじめとした入札は、国民の税金によって行われれるわけですから、競争が公平かつ公正でなければなりません。そのため、「特定の会社が有利になる」とか「特別なテクニックを使って点数が高くなる」という事態を未然に防ぎ、客観的で公平な採点方法を採用しなければなりません。
そのため、「会社の規模・経営状況・過去の施工実績・技術力」などを公正かつ公平に点数化するために、このような複雑な計算式になっているのだと思います。
勉強不足で恐縮ですが、そもそも、総合評定値P点は、何のためにあるのでしょうか?
するどいご指摘です。「総合評定値P点が何のためにあるか?」がわかれば、今後の経審対策が見えてくるかもしれませんね。
そもそも、公共工事を官公庁から直接受注しようとする建設会社は、経営事項審査を受けなければなりません。このことは、建設業法の27条の23に定められているのですが、それでは、なぜ、公共工事を官公庁から直接受注しようとする会社は、経審を受けなければならないのでしょうか?
地方自治体にしても、省庁にしても、公共工事を発注する際には、公共工事の規模に応じて、「このくらいの規模の工事であれば、こういった会社に落札してもらいたい」というおおよその枠組みを公表しています。たとえば、1億円規模の建築工事を発注したのに、2000万円程度の工事の実績しかない会社に落札されても、「工事の施工能力」「品質」「安全性」が担保されているとは言えないですね。あくまでも一般論ですが、発注者側である官公庁は「もっと実績のある会社に落札して欲しい」となるでしょう。
そういった発注者側と受注者側のミスマッチを防ぐために、「公共工事を受注したいのであれば、経営事項審査を受けて、総合評定値P点を取得してください。そして、総合評定値P点の点数によって、落札できる工事の規模をあらかじめグループ分けしますよ」というのが経営事項審査ひいては総合評定値P点の意味なのです。
少しわかりにくいかもしれないので、実際の東京都の公報に記載されている道路舗装工事の「等級」と「発注標準金額」をお見せしますね。
この表を見て頂くと「A~E」の等級と発注標準金額がグループ分けされています。つまり等級(経営事項審査の点数)がよければ、より規模の大きい公共工事の入札に参加できるチャンスがあるわけです。一方で、等級がDやEだと、大規模工事の入札に参加する機会が巡って来ないわけです。
なるほど、会社の施工能力や過去実績を適正に評価するための手続きとして経営事項審査が必要で、その経営事項審査の結果、算出された総合評定値P点で「落札できる工事の額」が変わってくるというわけですね。
おっしゃる通りです。
だから、より規模の大きい公共工事にチャレンジしたいと思ったら、「総合評定値P点をどうやって上げていくか?」「よりよいP点を獲得するにはどのような対策を取ればよいのか?」という点が重要になってくるのです。なかなか公共工事を落札できない会社というのは、このあたりの意識が薄いため、ただ漫然と経審を受けて、何となく結果通知書を眺めているという感じです。一方で、できる会社というのは、「次回に向けてどんな対策をすべきか?いつまでに何をすればP点が上がるのか?」熱心に研究されています。
こういった違いが、公共工事を落札できるか否かの違いに繋がってくるのだと思っています。
総合評定値P点を上げるための具体的な方法
総合評定値P点の算出方法は、わかりました。それでは、その総合評定値P点を上げていくには、どのような方法を取ればよいのでしょうか?
本題はそこです。残念ながら、総合評定値P点は、上げたいからといって簡単に上がるものではありません。もし、どんな会社でも小手先のテクニックで点数を上げてしまうことができるとしたら、どんな会社でもA等級相当の公共工事の入札に参加できることになってしまいます。しかし、それでは、いろいろな面で不都合が発生するということについては、先ほど、お話した通りです。
とは言え、まったく対策がないかと言えば、そういうわけでもないので、いくつかご紹介させて頂きます。
はい。時間の許す限りでよいので、ぜひ、お願いします。
まず、挙げられる対策としては「建退協への加入」「中退共への加入」「法定外労災への加入」の3つが挙げられます。公共工事を安定的にかつ継続して落札している会社で、この3つに加入していない会社は「ない」と言っていいくらいです。経営事項審査の加点事由になるから加入するというよりも、従業員の福利厚生を充実させるために加入している会社が多いイメージです。
この3つは、経営事項審査の際、「その他の社会性」という「W」という項目で、評価の対象になります。総合評定値P点への寄与度も非常に高いので、まだ未加入という会社があれば、ぜひ、加入を検討してみてください。みなさんの会社の従業員が、安心して働けるだけでなく、経審の加点事由にもなるわけですから、「売上高を上げる」とか「技術者を増やす」といった経審対策よりも、ダントツで優先度が高いと思います。
続いて、すこしテクニック的な話になりますが、「完成工事高の振替」という制度を利用することもお勧めです。
「完成工事高の振替」って、完成工事高を移動させるようなことでしょうか?そんなことできるのですか?
はい。
「完成工事高の振替」は「完成工事高の積み上げ」や「完成工事高の移行」と表現されることもあるようですが、ここでは、東京都の手引きににある通り「振替」という表現にさせて頂きます。
「完成工事高の振替」とは、内装工事の売上高を「建築一式工事」に計上したり、とび工事の売上高を「土木一式工事」に計上したりして、完成工事高を移動させることを言います。例えば、内装工事の売上高が1億円、建築一式工事の売上高が3億円だった場合。この場合、売上高の通り「内装1億円:建築3億円」として経営事項審査を受けることができます。一方で、「完成工事高の振替」を利用することによって、「建築4億円(1億円+3億円)」として経営事項審査を受けることもできるのです。
内装工事と建築一式工事の両方で、バランスよくP点を取得したいという会社は、「完成工事高の振替」を利用する必要はありません。しかし、建築一式工事のP点を上げたいという会社は、「完成工事高の振替」を利用して「内装工事」の売上高を「建築一式工事」の売上高に計上して、経営事項審査を受けることができるのです。これによって、建築一式工事のP点が飛躍的にアップすることがあります。
この「完成工事高の振替」は、裏技でもなければグレーな手法でもありません。行政庁が発行している手引きにきちんと記載されていますので、試しにやってみたいという人がいれば、ぜひ、手引きの該当箇所を参考にしてみてください。
「3つの保険への加入」「完成工事高の振替」の他に、何かお勧めの点数アップの対策はありますか?
細かいところを挙げるときりがないのですが、強いて言えば「防災協定の締結」が挙げられます。「防災協定」とは、簡単に言うと、建設会社と自治体との災害復興支援に関する覚書のことです。たとえば、自治体と「震災や災害が起こった際に、地域復興へ向けて、自社の建設機械や重機を貸し出します」といった約束をしている会社は、経審の加点事由になります。
また、「完成工事高を2年平均にするか?3年平均にするか?」「自己資本額を基準決算の数値でいくか?2年平均の数値でいくか?」といった点も、自由に選択できますので、より良い方を選択して申請を行うというのがお勧めです。
ありがとうございます。とても勉強になりました。そろそろお時間ですので、最後に、横内先生の方から、「総合評定値P点の算出方法と点数アップの対策」という本日のテーマに沿って、何か付け加えることがあれば、お願いします。
総合評定値P点の算出方法については、前半でお話させて頂きましたが、建設会社の社長や役員の方が、こういったことを覚えておく必要があるか?というと、はなはだ疑問です。自分で話しておきながら言うのも何なのですが、社長や経営陣には、もっと他にやることがあると思うのです。後半にお話させて頂きましたP点アップの対策も同様です。
もちろん社長自身が1つ1つの重要性を理解し、確実に手続きを履行していくという姿勢は、とても重要です。しかし、社長には社長の仕事がありますし、仮に、総務部に任せるにしても、総務には総務の仕事があります。このインタビューで私がお話したようなことを1から学んで、経審の結果に結びつける、反映させるには途方もない苦労が伴います。さらに、経審の点数アップの対策は、会社ごとに異なります。「技術職員名簿をより正確に作成したほうがよい」とか「工事実績の記載を工夫したほうがよい」など、会社の状況に応じて、対策も異なってくるのです。
総合評定値P点の点数アップは、会社の状況や取り組みによって、さまざまな方法がありますが、何よりもまずは、自社の現状を正しく把握し、1つずつ取り組んでいくことが重要です。本日お話した内容が、多くの建設会社さまにとって、今後のヒントになれば幸いです。
本日は、お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。
こちらこそ、ありがとうございました。