経営事項審査の手続きを建設会社に代わって代理申請できるのは行政書士だけです。この申請は行政書士の独占業務として国から認められているため、本人である建設会社が、自社の申請代理人として行政書士に手続きを外注することは多いです。
とはいえ、初めて経営事項審査を受ける建設会社の中には、「自社で手続きを進めたい」と考える方もいらっしゃいます。また、「どの行政書士に手続きを依頼すればよいかわからない」「行政書士との付き合いがないため自分で進めるしかない」という方もいるでしょう。しかし、経営事項審査の手続きを自力で行うのは、専門的な知識と経験が求められるため非常に難しく、申請ミスによって入札業務に悪影響を及ぼすリスクがあります。
そこで今回は、経営事項審査の専門家である行政書士法人スマートサイドの横内先生に、「経営事項審査を自社で進める際の正しい手順とよくある失敗例」について詳しくお話を伺います。専門家の意見を取り入れ、取り返しのつかないミスを防ぎ、安全で確実な申請手続きを目指しましょう。
「経審」と「入札」の関連性を理解する
それでは、横内先生。本日も、よろしくお願いします。
はい。こちらこそ、よろしくお願いします。
本日のインタビューのテーマは「経営事項審査を自社で進めるための正しい手順とよくある失敗例」ということですね。おそらく、これから「経営事項審査にチャレンジしていこう」という建設会社が読者層になってくると思うので、まずは、経営事項審査の基本的な部分について、お話しを進めていきたいと思います。
まず、経営事項審査とは、官公庁が発注する公共工事を、官公庁から直接受注する建設会社が受けなければならない手続きのことを言います。きっと、みなさんも「東京都の公共工事を受注したい」とか「○○省の公共工事の入札に参加したい」ということで、「経営事項審査の手続きにチャレンジしよう」と思っていることと思います。
経営事項審査を受けると、結果である「総合評定値P点」という点数が付けられます。経営事項審査は、「業種別の完成工事高(X1)」「利益額+自己資本額(X2)」「経営状況分析(Y)」「技術力(Z)」「社会性(W)」という5つの項目が審査の対象になりますが、その審査の結果、算出される点数が「総合評定値P点」です。各審査項目についての詳しい説明は、今回は割愛するとして、経営事項審査を受けると「総合評定値通知書」が発行され、その「総合評定値通知書」に記載されている「総合評定値P点」が、入札の等級格付の根拠になると覚えておいてください。
経営事項審査と入札参加資格の関連性ですね。どうぞ、続けてください。
はい。経営事項審査の結果である総合評定値P点が、入札参加資格を取得する際の等級格付け根拠になるのです。
わかりやすく言うと、総合評定値P点が高ければ「Aランク」になりますし、P点が低ければ「Eランク」になってしまいます。「Eランク」よりも「Aランク」の方が、より規模の大きい公共工事の入札に参加できるチャンスが増えるわけですから、多くの建設会社が「EよりもD」「DよりもC」「CよりもB」というように、より上のランクを狙っているわけです。
より上のランクを狙うには、経営事項審査の結果がよくなければなりません。経営事項審査の結果であるP点が「ランク」を格付けする際の基準になるのですから「総合評定値P点」が悪いと、上のランクを狙うことができず、結果として、規模の小さい公共工事にしか入札できなくなってしまうのです。
初めて経営事項審査を受けようとする人は、すくなくとも、いま話したような「経営事項審査の結果である総合評定値P点」と「入札参加資格の等級格付け」との関連性は、理解しておいて欲しいところです。
正しい手順の理解が必須
今の話を聞くと、「経営事項審査での失敗は、入札の際の低いランクを意味する」と言えそうですね。ますます、経審での失敗は許されないように思えてきます。それでは、経審での失敗を防ぐためには、どういった対策を行えばよいのでしょうか。
はい。まずは、正しい手順の理解が必須です。
経営事項審査は、「決算変更届の提出」「経営状況分析の申請」が終わってからでないと、申請することができません。この点については、私の事務所のホームページでも幾度となくご案内していますし、以前のインタビューでもお話ししていることなので、簡単に済ませますが、とにかく「決算変更届の提出」「経営状況分析の申請」をしてからでないと「経営事項審査」に進むことができないと覚えておいてください。
よくある失敗例としては、「決算変更届の提出漏れ」であるとか、「決算変更届の提出や経営状況分析の申請に時間がかかりすぎて、経営事項審査の期日まで、スケジュールがタイトになってしまった」というケースです。このあたりのスケジュール管理が、うまく行かないと感じた場合には、自社での処理は限界です。迷うことなく、行政書士に手続きを外注することをお勧めします。
決算変更届を提出する際に作成した「工事経歴書」や「財務諸表」が、経営事項審査の対象になるので、「工事経歴書の書き間違い」や「財務諸表の入力間違い」はあってはなりません。また、経営状況分析については、はじめての申請の場合、3期分の決算書が必要になります。経営状況分析の結果通知書は、経営事項審査の添付書類として必要です。こういったことを「知識」として理解しておくと、失敗につながるリスクを減らすことができるでしょう。
失敗例その1:税込みでの書類作成
「決算変更届」「経営状況分析」が済んでから「経営事項審査」という流れの把握ですね。理解しました。続けてください。
よくある失敗例の1つ目として、経営事項審査に申請する書類を、消費税込みで作成してしまっているパターンがあります。
実は、以前、別の行政書士の先生から業務を引き継いだ際に、その先生が経審の申請書を税込みで作成しているケースがありました。私の中では、「経審に申請する書類は、消費税抜きで作成するのが当たり前」だったので、「行政書士の先生の中にも、間違える人がいるのか!」と、少々驚いた記憶があります。
消費税抜きで作成するのは、「決算変更届」の際に提出する「工事経歴書」「直前3年の各事業年度における工事施工金額」「財務諸表」もそうですし、経営状況分析の際に提出する「過去3年分の財務諸表」もそうです。もし、みなさんの会社が、経営事項審査を受ける予定でいるのであれば、「決算変更届」も「経営状況分析」も、すべて、税抜きの金額で作成するようにしてください。そうでないと、途中で「税込み表記」を「税抜き表記」に訂正しなければならなくなり、書類作成が二度手間になってしまいます。
そして、もし、税理士の先生が、決算書を税込みで作成しているのであれば、ぜひ、「税抜きに変えてください」とお願いしておくのが良いでしょう。経営事項審査は、毎年、受けなければなりませんので、毎年、「税込み決算書」を「税抜き決算書」に書き換えなければならないのは、非常に面倒です。
失敗例その2:経営事項審査用の工事経歴書の書き方
申請書類を「消費税抜き」で作成するという点ですね。その他には、何かありますか?
2つめのよくある失敗例として「工事経歴書の書き方」が挙げられます。
経営事項審査を受けない場合と経営事項審査を受ける場合とでは、「工事経歴書の書き方」が異なります。これを理解しないで、経営事項審査を受けない場合の書き方で工事経歴書を作成してしまうと、工事経歴書の作り直しという二度手間になってしまいます。
経営事項審査を受けない場合、つまり通常の場合、決算変更届の際に提出する工事経歴書は、元請工事や下請工事に関係なく、各業種ごとに金額の大きい方から10件程度の記載を求められます。つまり、経営事項審査を受けない場合は、元請工事や下請工事といった工事の種類を考えることなく、ただただ、金額の大きい方から10件、記載していけばよいという考え方です。
これに対して、経営事項審査を受ける場合。まずは、元請工事の金額の大きい方から順に、元請工事の総額の7割に至るまで、元請工事を書き続けます。元請工事の総額の7割に至るまで元請工事を書き続けたら、次は、元請工事・下請工事に関係なく、総完成工事高の7割に至るまで、金額の大きい順に工事の実績を書き続けます。
経営事項審査を受ける際の工事経歴書の書き方については、入念に手引きを確認し、「どこまで元請工事を記載するのか?」「全体のどれくらいに至るまで何件の工事を記載すればよいのか?」を、事前にチェックしておく必要があります。経営事項審査用の特殊なルールを理解しないまま、工事経歴書を作成してしまうという失敗は、本当によくあることなので、絶対に避けるようにしてください。
失敗例その3:工事実績の裏付資料の提示
工事経歴書の書き方に、違いがあるんですね。自社で経審の手続きを進めることが、なんだか急に難しく感じてきました。
そうですね。このあたりのルールは、手引きにも明記されていることですので、自社で手続きを進める以上、最低限、守って欲しいルールと言った感じです。
「工事経歴書の書き方」と関連して、絶対に失敗して欲しくないのが、工事経歴書に記載した工事の実績の裏付資料の提示です。経営事項審査の際には、「契約書」「注文書・請書」「請求書・入金記録」などで、工事経歴書に記載した工事のデータが本当か?をチェックします。「工事経歴書に記載した工事の上から3件」とか「工事経歴書に記載した工事の金額の大きい方から3件」とか、行政庁によってルールが異なりますが、おおむね、3件の工事実績の裏付資料の提出を求められます。
経審用の特殊なルールに基づいた工事経歴書が作成できていなければ、その時点でアウトですし、仮に工事経歴書の作成がルール通りにできていたとしても、「契約書」などで工事の実績を証明できなければ、それもアウトです。いずれにせよ、工事の実績を証明できなかった場合、その工事の完成工事高は経営事項審査では評価の対象とならなくなってしまいます。
以前、知り合いの行政書士の先生から「工事実績の証明をすることができずに、1億円規模の完成工事高が、経営事項審査の評価対象から外れてしまった」という話を聞いたことがあります。完成工事高は「X1」の評点で、元請完成工事高は「Z」の評点で、それぞれ審査項目となるため、1億円規模の完成工事高が「X1」評点と「Z」評点の両方で審査の対象から除外されるとなると、相当な痛手です。経営事項審査の総合評定値P点は、「X1」評点と「Z」評点を加味して算出されますし、P点が低くなれば、等級も低くなってしまいます。等級が低くなってしまえば、規模の大きい公共工事に参入することは絶望的です。
その会社が、その後どのような経緯をたどったのかは、定かではありませんが、経営事項審査の際には、契約書などの裏付資料の提出が求めらることを、覚えておいてください。
失敗例その4:経営事項審査を申請する業種の選び方
1億円という金額は大きいですね。工事経歴書は、決算変更届の際に提出する書類ですが、経営事項審査の際には、その裏付が必要であるということを、きちんと理解しておきたいと思います。その他に、よくある失敗例はありますか?
そうですね、これが最後になりますが、申請する業種選びには、注意した方がよいでしょう。
例えば、「電気工事の建設業許可しか持っていない会社が、電気工事の経審を受ける」という場合は、特に問題は起きません。「管工事の建設業許可しか持っていない会社が、管工事の経審を受ける」という場合も同じです。
しかし、たとえば、「建築一式工事」「大工工事」「屋根工事」「タイル工事」「鋼構造物工事」「内装工事」の6つの建設業許可を持っている会社が経審を受ける場合、「どの業種で受けるべきか?」という点が問題になります。経営事項審査を受ける業種は、建設業許可を持っている業種から選択できるので、許可業種と同じ(建)(大)(屋)(タ)(鋼)(内)の6つの業種で経審を受けても構いません。ただ、経営事項審査には、「完成工事高の振替」という制度があるので、内装工事や屋根工事の完成工事高を建築一式工事の完成工事高に振り替えて経営事項審査を受けることもできるのです。
横内先生。ちょっとわかりづらいかもしれません。もう少し、かみ砕いて説明してもらえるでしょうか?
そうですね。この部分は、本当によくある失敗例なので、もう少し、わかりやすく説明しますね。
まず、経営事項審査を受ける際のルールで「完成工事高の振替」という制度があります。この「完成工事高の振替」をするか否かは、申請者の自由です。先ほど、お話ししたように(建)(大)(屋)(タ)(鋼)(内)の6つの業種で建設業許可を持っている会社が、(建)(大)(屋)(タ)(鋼)(内)のどの業種で経審を受けるのも申請者の自由です。どれか1つを選んで、経審を受けても良いですし、6個全部で経審を受けてもよいのです。
ただ、例えば、この会社の完成工事高が「建築:0円」「大工:5000万円」「屋根:2000万円」「タイル:0円」「鋼構造物:0円」「内装:8000万円」であった場合。大工工事と屋根工事と内装工事の完成工事高を建築一式工事に振り替えて「建築:1.5億円」という申請の仕方もできるわけです。その場合、振替元である「大工」や「屋根」や「内装」では経審を受けることができなくなってしまいますが、そのかわり、振替先である「建築」でよりよいP点を獲得することができます。
この制度を利用することによって、建築一式工事の完成工事高が「0円」から「1.5億円」として、評価されるのですから、この制度を利用しない手はないと思うのです。が、しかし、意外とこの制度を利用している建設会社は多くありません。みなさんの会社が、大工工事や屋根工事や内装工事で高いP点を取得したいのであれば、振替制度は利用するべきではありませんが、建築一式工事で高いP点を取得したいのであれば、迷わず、振替制度を利用して、経営事項審査を受審すべきでしょう。
経営事項審査の手続きを自社で進めるリスク
「売上高の振替」というのですね。初めて知りました。確かに、こういった制度を利用して申請するのと、まったく知らないで申請するのとでは、経審の結果に大きな違いがでてきてしまうでしょうね。
そこが、まさに、経営事項審査を自社で進めるリスクなんですよね。
私がこのインタビューでお話ししたことは、どれも経営事項審査の基本中の基本です。とくに、「売上高の振替」については、総合評定値P点を上げるための裏技のように感じた人もいらっしゃるかもしれませんが、きちんと手引きに書いてあることです。社内の経審担当者がそういった点についてまで、配慮して手続きを進めることができれば良いのですが、失敗するリスクは非常に大きいと思っています。
ありがとうございます。そろそろお時間ですので、最後に一言お願いいたします。
私自身が「行政書士をやっているから」というわけではないのですが、やはり、公共工事の効率的な受注活動を目指すのであれば、積極的に専門家の力を借りて欲しいというのが率直な思いです。経営事項審査は、1回やれば終わりというわけではなく、毎年継続して受け続けることが必要です。
1回やってうまく行かなくても、改善点を見つけ出し、うまく対応していけば高得点も夢ではありません。しかし、少しでも早く、公共工事を落札したいと考えているのであれば、「手続き」で躓いている場合ではないのです。経営事項審査や入札参加資格申請など、とっとと終わらせて、少しでも有利なランクで入札資格を取得すべきなのです。
「これは専門家に相談すべき」と判断する目安としては、「申請書類の作成で疑問や不安を感じたとき」「手続きの進め方に迷ったとき」「審査に影響が出るような重要な判断が必要なとき」などがあります。また、行政書士を上手に活用するコツとして、早めの相談や具体的な課題を明確に伝えることが挙げられます。
最後になりますが、不安な時こそプロに相談し、効率よく確実な審査を進めていっていただければと思います。
本日は、貴重なお話しをありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。